循環器の病気

循環器の病気について

循環器といってもぴんとこない方が多いかもしれません。循環器とは、血液を送り出してからだをめぐる、その経路をいいます。具体的には心臓と血管、おもに動脈です。心臓のリズムがおかしくなる「不整脈」も循環器の病気の一つです。

当院では、動脈硬化などを簡単に調べられる心臓エコーおよび頸動脈エコー検査が受けられますので、ご興味のある方はお気軽にご相談ください。

心臓の病気

  • 心臓の弁膜の異常:弁膜症
  • 心臓の筋肉の異常:肥大型心筋症、拡張型心筋症、高血圧性心疾患など
  • 心臓へ栄養を送る血管(冠動脈)の異常:心筋梗塞、狭心症
  • 心臓リズムの異常:不整脈

血管の病気

動脈

  • 動脈瘤:動脈のこぶのことで、大きくなると破裂の危険があります。
  • 解離性大動脈瘤:三層でできた動脈の壁が裂けてしまうこと。緊急手術が必要なこともあります。
  • 閉塞性動脈硬化症:足の血管の動脈硬化がすすみ、あしの先が冷たくなったり、足が痛くなったりすること。

静脈

足の静脈瘤が代表的です。これは足の静脈がとぐろをまいてしまったりして流れが悪くなり、滞った血液が肺の血管につまってしまう「肺塞栓」の原因となる可能性があります。

血液の病気

心房細動について

心房細動と心臓の仕組み

心臓のリズムの異常である「不整脈」の1つです。心臓には、上のパートの「心房」と下のパートである「心室」が、左右それぞれ2つずつ、合計4つの部屋に分かれています(図1)。そして洞結節という「発電所」から発せられるリズムで動いて血液を全身へ送り出す、いわゆる「電気仕掛けのポンプ」なのです。

通常は、洞結節から発せられた規則正しい(1分間に60回から80回のペースで)電気シグナルはまず心房を刺激して血液を各心室に送り、メインのポンプである心室から血液を全身、肺に送り出すのですが(図2a)、何らかの原因で心房が小刻みに震えることしかできなくなってしまい(図2b)、実質的に心室のみで心臓のポンプの働きをせざるを得なくなることがあります。これを「心房細動」といいます。この結果心臓のリズムは規則性を失い、ポンプの働きが十分にできないためにさまざまな問題を生じるのです。

心房細動になるとなぜ恐ろしいのか?

もっとも問題なのは、脳の血管がつまる「脳梗塞」が非常に起きやすくなってしまうことです。脳梗塞は年間50万人発症しますが、このうち約2割から3割が心房細動がらみで生じるのです。実際は心房細動になると、心房が小刻みにしか動かなくなるため、血液がよどみ、血液の塊(血栓といいます)ができて、脳まで流れて行ってつまってしまうのです(脳塞栓)。同じ脳梗塞でも、単に動脈硬化から生じる脳梗塞よりも、心房細動から起きる脳梗塞の方が大きな脳梗塞になる可能性が大きく、後遺症や麻痺、寝たきりになる可能性が高くなります。巨人軍元監督がなったのも有名な話です。このため心房細動がある場合には、第一に脳梗塞にならないような治療法が大事になります。

もう一つは「心不全」といって、心臓がへたってしまうことです。心臓のポンプの働きの3分の1を担っている心房が働かなくなるため、本来の心臓の力の3分の2でまかなわなくてはならず、もともと心臓の力の弱い方やお年寄りや、心房細動が長く続いた場合には血液を十分に送り出すことができず、またその分が心臓の上流の肺にたまってしまうのです。その結果体が「疲れやすく」なり、同時に「呼吸困難」が生じるのです。この状態を「心不全」といい、命の危険になります。ですので心房細動になった場合には、心不全にならないように注意が必要になってくるのです。

心房細動の原因と頻度

  • 加齢
  • ストレス
  • アルコール・喫煙
  • 過労・睡眠不足
  • 糖尿病
  • 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
  • 心臓病

以上ですが、1番上から4項目までは現代社会において、だれしも身近な問題ですね。
また心房細動は重篤な不整脈の中ではもっとも頻度が多く、加齢とともに増えることは上で述べました。欧米では40歳以上になると4人に1人が患うようになり、2030年ころにはわが国でも100万人を突破すると考えられています。

心房細動の自覚症状

  • 動悸
  • 脈の乱れ感
  • 胸の苦悶感
  • ふらつき、めまい
  • 倦怠感
  • 脳塞栓の症状(さまざま)

全く無症状である人もいれば、脳梗塞(脳塞栓)を起こしてはじめてわかる方までいますので、定期的な健康診断で心電図をとることは大事です。

心房細動の種類

発作性心房細動と慢性心房細動

いつもは普通の脈なのに、たまに心房細動になる場合(発作性心房細動)と、いつも心房細動になっている(慢性心房細動)に分かれ、慢性心房細動はさらに、治療をしてもなおらない心房細動(永続性心房細動)に分類される場合があります。

徐脈性心房細動と頻脈性心房細動

脈がゆっくりになってしまう(徐脈性心房細動)ものと、脈が速くなってしまう(頻脈性心房細動)ものがありますが、両者とももっている場合も多いのが実際です。

検査

心電図

健康診断では必ずといっていいほど検査します。発作性心房細動は発見できない場合がありますが、慢性心房細動は診断できます。

ホルター心電図

通常の心電図ではわからない場合に、1日間体に装着して、病院にいない時に一時的に心房細動になっている(発作性心房細動)かの発見に活躍します。

運動負荷心電図

とくに運動時や運動後、ストレスで生じる心房細動の場合に使用される検査です。

心臓エコー(超音波)検査

心房細動の重症度、心不全のリスクの評価や、治療方針の決定に必要です。

心房細動の治療

心房細動の治療としては、大きく3種類の治療の考え方があります。

A心房細動の原因・誘因を取り除く治療

上記「心房細動の原因と頻度」に対する治療を行う。すなわち

  • 加齢→治療は困難なので下記の対策を行う
  • ストレス→余暇、睡眠、リクリエーション、運動、旅行、規則正しい生活
  • アルコール→節酒、禁酒
  • 過労・睡眠不足→休暇、睡眠、昼寝
  • 糖尿病→食事療法、運動療法、内服療法、インシュリン治療
  • 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)→内服薬、放射線治療、ヨード治療、手術
  • 心臓病→塩分制限、運動療法、内服薬、カテーテル治療、手術など

いずれにせよ、無理なく、十分な睡眠と規則正しい生活を送ることが大事だといえます。

B塞栓症(脳塞栓、心筋梗塞など)を起こさないための治療

結論として「抗凝固剤」という血液をサラサラにする薬の一種を服用することにつきます。
以前はワーファリンというい薬しかありませんでした。ただこれには、納豆を食べてはいけないとか、ほかの薬との飲み合わせの問題が難しかったり、頻回に血液検査を行ってその都度服用する錠数を調整する必要があったりと、非常に難しい特殊な薬の一種でした。
2011年より新規抗凝固剤として、

  • プラザキサ
  • イグザレルト
  • エリキュース

の3種類が登場することによって、納豆などの食事制限やほかの薬との飲み合わせの問題、頻回の血液検査の問題も解決されました。

ただまだこれらの新規抗凝固剤は歴史が浅く、有効性や安全性に関しても完全とは言えないため、医師とよく相談したうえでどういった治療が望ましいか慎重にきめていく必要があります。
なお、狭心症や心筋梗塞で用いられるバファリンやアスピリンといった「抗血小板剤」は、心房細動の塞栓症予防には無効です。

C心房細動そのものに対する治療

  • 心房細動が出ないようにする治療
  • 心房細動の心拍数を調整する治療

で、それぞれ薬の治療と機械の治療があります。

1心房細動が出ないようにする治療
  • 薬:心房細動の出現するメカニズムの一部を抑える薬です。
    アミサリン、リスモダン、シベノール、ピメノール、プロノン、アスペノン、ベプリコール、アンカロンなどです。
  • カテーテルアブレーション(カテーテル焼灼術)
    足の付け根の血管からカテーテルという細い管を心臓まで挿入し、心房細動の原因となる心房の一部に高周波を一定時間当てることによって、そこから心房細動が出ないようにする治療です(図6a)。大学病院や専門病院での入院のうえ治療を行います。
2心房細動の心拍数を調節する治療
  • 薬:心房細動の脈の伝え方を遅くする薬です。
    β遮断剤(テノーミン、アーチスト、メインテートなど)
    カルシウム拮抗剤(ワソラン、ヘルベッサー)
    ジギタリス製剤(ジゴキシン、ハーフジゴキシンなど)
  • 心臓ペースメーカー治療
    心房細動の脈が非常に遅くなった場合(つまり徐脈性心房細動)に行う治療です。鎖骨の下から導線と電池を入れる簡単な手術を行い、一定リズムで心臓を刺激して脈を補う治療です(図6b)。

とくに危険な心房細動とは

  • 高齢者(75歳以上)
  • 糖尿病のある人
  • 血圧の高い人
  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血、一過性脳虚血)に過去なったことのある人
  • 心不全などの心臓病のある人

項目に当てはまる方は脳梗塞を起こす危険性が高く、注意が必要です。

最後に心房細動にならないために、そしてなっている人も、「心房細動の原因と頻度」であげた内容でとくに、ストレス、過労、不眠、タバコ、過度の飲酒を避け、規則正しい生活を送るとともに、持病のある方は、かかりつけの先生とよく相談して適切な治療を受けるようにしましょう。

弁膜症について

心臓には4つの部屋と、出口と入口が各々2つあります(図1)。

その血液の通り道がスムーズになるように、「弁」あるいは「弁膜」と呼ばれるバルブがあり、それが硬くなったり、ゆるくなったりして異常をきたすのが弁膜症です。硬く狭くなってしまうことを「狭窄症」といい、ゆるくなり血液が逆流してしまうことを「閉鎖不全」といいます。たとえば左心房と左心室の間にある僧帽弁がゆるくなって血液が逆流、つまり左心室から左心房にむかって戻ってしまう場合には「僧帽弁閉鎖不全症」「僧帽弁逆流症」といいます。

検査法

  • 心臓エコー(超音波)検査:短時間に苦痛なく、弁の形や動き、心臓の中の血液の流れに異常がないか調べます。

治療法

  • 生活療法:塩分制限(進行したら運動制限)。
  • 薬物療法:血管拡張剤、利尿剤、強心剤。
  • 手術療法:ブタの弁膜や人工の弁膜につけかえる手術です。一部の軽症の場合には、カテーテルによる治療もあります。

心筋症について

拡張型心筋症

心臓の筋肉が薄く、心臓自体が大きくなって、あたかも伸びきって弾まなくなったゴムボールのように、血液を送り出すというポンプの働きがなくなってしまいます。その結果、「心不全」を起こしやすくなります(図2)。

日本では少ないですが、進行すると心臓移植が必要になってくるのがこの病気です。最近ではドラマや映画にもなった「バチスタ手術」といわれる心臓縮小術も日本ではされるようになっています。

検査法

心臓エコー(超音波)検査:短時間に苦痛なく、心臓の構造や心筋の動き具合を調べます。

治療法

  • 生活療法
    塩分制限(進行したら運動制限)。
  • 薬物療法
    血管拡張剤、利尿剤、強心剤。
  • 手術療法
    心臓移植、人工心臓、心臓縮小術(バチスタ手術、ドール手術など)。日本では倫理的に心臓移植が困難なので、人工心臓や、最近ではバチスタ手術などの心臓縮小術が盛んに行われるようになりました。
  • ペースメーカー療法(心臓再同期療法)
    拡張型心筋症が進行すると、右と左の心室の動きがばらばらになり、心臓の働きの効率が悪くなります。3本の導線につけたペースメーカーをいれることにより、その効率を良くすることができるペースメーカー療法(心臓再同期療法)が、最近では盛んに行われています。

※心筋症は心不全のみではなく、重症な不整脈を合併しやすく、脳梗塞や突然死(心室細動など)に至るケースが多く見られます。そのため、予防としてワーファリンといわれる脳梗塞予防薬が必要である方が多く、また植え込み型除細動器を植え込む必要がある方も少なくありません。

肥大型心筋症

心臓の筋肉が厚くなる病気です。無症状の人が多いのですが、家族性によって発症する方は、突然死も無視できません。

検査法

心臓エコー(超音波)検査:短時間に苦痛なく、心臓の構造や心筋の動き具合を調べます。

治療法

無症状の方には治療なしで、年1度くらいの外来診察で大丈夫です。病状がすすみ、息切れや胸の痛みがでてくる方は、薬を飲む必要がでてきます。心房細動とよばれる不整脈が認められる方には、ワーファリンで脳梗塞予防をする必要があります。重症な心室性の不整脈を合併するかたには、植え込み型除細動器が必要な場合があります。

※一部のかたは、拡張型心筋症のようなタイプに移行する場合があり、その場合にはバチスタ手術や心臓移植、人工心臓が必要な場合があります。